真愛



ドアの方には母の姿。

助けてくれる、そう思った矢先。

ベッドに近づき、私を殴り飛ばした。

何が起きたのか理解出来なかった。

頭の中は疑問だらけで。

母の口から出た言葉は、衝撃的だった。

「何してるのよ!?人の男をなんだと思ってるの!?」

「おか、さ……?私、ずっと襲われて…」

「アンタが誘ってたんでしょう!?それに私のことをお母さんだなんて呼ばないでちょうだい!!虫唾が走るわ!!!」

言葉が出ず、口を震わせる。

なんで……?

娘が男に襲われてるんだよ……?

「それにねぇ…アンタはもういらないのよ!!」

面と向かって決定的な一言をいわれた瞬間だった。

いらないって何…?

この日から私は、この言葉に縛られ続けた。

トラウマになって、いらないと思われることに恐怖を覚えた。

私はこの日から、人を信じず、希望なんて抱かないようになった。





話終えると、みんなはかける言葉が見つからず、絶句していた。

突然過去を明かされて、そりゃ何もいえなくなるよね。

「愛を知らない私。愛されて育った尊。正反対な私たちが出会ったことは奇跡だと思うんです。尊のおかげで、また人を信じようと…信じたいと思えて。私の中で何かが確かに変わっていくのを感じました。だから……尊と出会えたことに、心から感謝してます」

心からの言葉だった。

きっと、尊がいなきゃ今でも心から人を信用出来ずに生きたと思う。

尊だからこそ、私は光の道を歩ける。

私を変えてくれた。

愛を与えたい、だなんて思うことなかったのに。

でも何でだろうね?

尊には与えたいって思うの。

愛しいって心から思えるの。

「奈々、話してくれてありがとう。辛かったわね。大丈夫、私たちが貴方の親。これからは本当の親子のように甘えたっていいの、ワガママだってたくさんいって?尊の女だからじゃない。貴方だから私たちは愛したいと思うの」

そういって穏やかに笑った。

その言葉に無意識に涙が流れる。

ありがとう、ありがとうと何度も頭を下げた。

やっと、温かな愛をもらったよ。

もう、あの頃の1人ぼっちの私はどこにもいない。

他愛もない話を少しして、尊と一緒にマンションへと向かった。





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