真愛
いつも通り、楽の運転する車に乗って。
でも、今日は何か違った。
車内でも誰も言葉を発しない。
きっと私の心が曇ってるからかな。
長い沈黙を破ったのは、私だった。
「尊。私を…手放したっていいのよ」
「……は?」
「私は尊が思ってる以上に汚れてる。この話が周りにバレたりしたら、久月組の品格が問われる。汚れきった私をよく思う人なんていない。迷惑をかける前に…早く捨てて」
幼い頃から汚れ続けてきたこの体。
久月組のみんなが受け止めてくれても、他の組は違う。
悪い噂が流れれば組に迷惑がかかる。
ここまで大きく成長した組織の失脚を狙う輩も少なくはない。
それだけこの世界は厳しいと思う。
私のことなんかで組全体に迷惑をかけるわけにはいかない。
「もう、充分よ。尊に愛された。それだけで、私は生きていけるわ。だから…捨てるなら今よ」
窓の外を眺めながら言葉を紡ぐ。
尊がどんな表情をしてるのかはわからない。
怖くて、見れないのが正しい。
尊から別れを告げられるより、自分から告げた方がいいでしょう?
どこまで私は臆病なのかと嫌気がさす。
でも……こうするしかない。
まだ公にはなってないはず。
今ならまだ間に合う。
冷静を装い、尊の返事を待つ。
もう、捨てられる覚悟はできてる。
けれど、尊の口から出たのは意外な言葉だった。