スパイシーショコラ
第3章 ナンバーワンホスト
車から下りた男は、胸のポケットからシガレットケースを取りだす。




パチン!と軽く蓋を弾いて、タバコは瞬く間に細い指先のあいだへ。




(魔法みたい!!)




次の瞬間、タバコは優美な指先から、薄く貴族的な唇へと居場所を移される。




同じ指でシガレットケースを仕舞うと、いつの間にか取りだしたライターに火を燈した。




しなやかな手つきで炎を覆いながらタバコを近づけ、ゆっくり息を吸い込んでゆく。





ふーっ





吐き出された煙が、夜の闇に広がった。






ジタンの香り。





わずか4.5秒のショーの幕切れは仏蘭西の香りがした。









タバコに火を点ける。


たったそれだけの動作で、一瞬にして自分の世界に人々を惹き付ける。



そういう種類の人間がいる事は解ってはいたが、実際に目の当たりにして、その魅力にあらがうことなどできない、花江だった・・・・・






「よっ、お疲れさサン!!今日も元気に屋台ひいてきたのかよー!!」





さっきのショータイムはなんだったのか?と思うほど拍子抜けした男の第一声が響いた。





「へへっ、いらっしゃい!!また来てくれたんスね~。嬉しいっス!!」




「んー、お客さんに頼まれちゃってサー。お兄サンとこのチョコ、なんかスッゲー評判良いんだけど、マジ、ヤバイくらい。わりぃーんだけど、今日チョット多めに貰ってって良いカナ?」



「ハイ!かしこまりました!!お幾つに致しますか?」




「えっと、10人分なんだけど、一人3つづで、全部で30個、へーき?」


「うっわ、ぎりぎりっすね~  でも大丈夫。なんとか間に合います。」




「マジ?悪いね!」


「いえ、こっちこそスイマセン、お客様に気を遣わせちゃって。」


「んもぅ~、なになに~、ぜんっぜん、ぜんっぜんそんな事ないって!!」


大げさに手を振っておどけてみせる態度は、心なしか、カールスモーキー石井氏を彷彿とさせていた。


< 5 / 27 >

この作品をシェア

pagetop