シロツメクサ
「俺は、向井晴一
みんな、ハルとか呼ぶ。
まだ誕生日来てねぇから16だけど、
いちお高2だから」
ムカイハルイチ…
…なんか
「語呂悪くない?」
「うっせぇな、お前、
傘貸してやんねぇぞ!?」
別に頼んでないし。
そう言い返す前に、
コイツ……晴一が口を開く。
「んで、お前の名前は?」
ちょっとだけ、
怒りからか照れからか顔を赤くして、
晴一は言った。
「あたしは、中村優奈。
15歳で、中3」
なんの嘘偽りもなく、いった。
初対面の人。
2つ年上の人。
しかも男。
危険な要素(?)いっぱいでも、
あたしはなぜか、
“危ないかも”なんて、
全く思わなかった。
それは、晴一があまりに
間抜けっぽいせいか、
それとも……--
イヤ。
この可能性はないな。
そう思って、
あたしはその感情の欠片を、
胸の奥深くへと、しまった。
きっと一晩過ごしたら、
すぐに忘れる相手だろうし。
少しでもそんな風に思うのは変だろう。
「…ん、ユウ、でいっか?」
「どーぞ御自由に~♪」
言って、あたしは晴一の手から
傘をもぎ取り、先に歩きだす。
「あっ、てめェ!!」
「えへへへ~♪」
「ってか、お前道わかんのか!?」
「わかんなーい。
どっちー??」
…ったく。
そう小さく呟き頭をかいて、
晴一が駆け寄ってくる。
そんな姿を見て、
あたしはふいに気付いた。
「さっきまで悲しかったの、
一体どこ行ったんだろ」
声にださずに呟いて、
雨の中、ゆっくりゆっくりと回る、
大観覧車を見上げる。
そして、
「--ばいばい…」
誰にともなく、呟いた。