オオカミ専務との秘めごと
「ちょっと待ってろ」
慣れた感じで軽やかに先に乗り込んだ大神さんが、私をグイッと引っ張り上げてくれ、勢い余って抱きつく形になってしまった。
「おっと。大丈夫か?」
腰をぐっと支えられ、まるで抱きしめられているような感覚になる。
「はい。すみません」
恥ずかしくて胸のあたりを押して離れようとすると、そのまま抱き上げられて椅子にすとんと座らされた。
「お前は、危ないことをするな」
厳しい視線を向けられて、すぐに気がついた。
さっきあのまま後ろにさがっていたら、足を踏み外して下に落ちていただろう。
シートベルトをしているとドアが閉まり、パイロットが何事かを呟くと機体がふわっと浮き上がった。
バタバタバタと響くプロペラの音は大きいけれど、大神さんとは普通に会話ができる。
「ここは、年に何度か利用するんだ。眼下に広がる景色を見ると、自分の小ささを思い知る。それで初心に戻れるんだ。ドイツから戻ってからは、初めてのフライトだな」
高度が上がるにつれて、窓の向こうに見えていたビルがどんどん小さくなっていく。
やがて眼下には宝石を散りばめたような光の海が広がった。
「わあ・・・綺麗・・・。あ、あれは遊園地ですよね?」
光の散らばる海の中で、大輪の花が一つ咲いている。あれは、観覧車だ。
赤い光が川のように見えるのは、きっと道路だ。
ビル群の中でひときわ強い光を放っているのは、TVの電波塔だ。