オオカミ専務との秘めごと
新聞配達の時に見上げていた星空よりもずっと美しく、ゆっくり移り変わっていく景色に、ひたすら感嘆の息が漏れる。
こんなものを見られるなんて、なんて幸せなことだろうか。
魅入っていると、ふと手の甲にぬくもりを感じて、胸がトクンと鳴った。
振り向くと、彼は景色ではなく私をじっと見ている。
「ナイトクルージングは気に入ったか?」
「はい、すごく。光の波がイルミネーションよりも素敵で、感動しています。でも、どうして内緒にしてまで、私をここに連れてきたんですか?」
「これは、俺からのご褒美だからだ」
「・・・それは、一体何の?」
「新聞屋だ。長年、一人で、よくがんばったな?」
頭をくしゃっと撫でてくれる大神さんの瞳が優しくて、こんなご褒美をくれたことが信じられなくて、胸に熱いものがこみ上げてくる。
「あ・・・は、はい、ありがとうございます・・・」
こんなご褒美をくれる雇用主なんて、他にいるだろうか。
私のちっぽけな世界の中では、誰もいない。
ううん、きっと、日本中探したっていないはずだ。
大神さんはすごく優しい人なんだ。
正直、辛くて何度もくじけそうになったことがある。
なんで両親は私たちを残して死んでしまったのかと、涙にくれたこともある。
そんないろいろなことが帳消しになるほどのサプライズ。
涙で霞みがちになる景色を忘れないように努め、このことを胸に刻み込み、これからも仕事をがんばろうと思えた。
本業は勿論、レンタルも──。