オオカミ専務との秘めごと


だって、とても素晴らしい景色だったのに写真に撮れないことを残念に思っていたから、見た瞬間「これだ!」と思ったのだ。


『それがほしいのか?』

『はい、これが一番いいなあって思います』

『そうか』


大神さんは、私の手の中からパッドを取り、そのままスマートに会計を済ませてしまった。


『今日の記念だな』


ほら受け取れ、とヘリポートのロゴの入った袋を渡された。

あまりにロマンチックな夜で、あのひとときは夢に思えてしまうけれど、このパッドが現実だと教えてくれる。


「あ、これいいかも。ね、見て。菜緒」


興奮気味の佐奈がスマホの画面を私に見せてくれる。

そこには、『お好みのマウスパッド作ります』とあり、写真を送れば一枚から作ると書かれていた。

佐奈のデスクがキャラクター一色から南国色に変わる日は、それほど遠くなさそうだ。


二人でスマホを覗いていると「何やってんの?」と話しかけられた。

この声は、長谷部さんだ・・・。


「何でもありません。また楢崎主任に用ですか?生憎、今はいませんよ」

「あー、そうみたいだな。ま、急がないからいいか」


そう言ったあとちらっと私を見るので、書庫でのシーンがフラッシュバックし、慌てて目を逸らした。

ナイトクルージングのお陰で、すっかり忘れていたのに!

長谷部さんは、見ていたのは私だと気付いているはず。

でも彼はいつもと変わらずに佐奈に話しかけて、いつものごとく追い出されている。

全然平気そうで、気にしていないみたい。

あれは、やっぱり、よくあることなんだ・・・。



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