オオカミ専務との秘めごと
恥ずかしくて顔を上げることができず、俯いたまま会釈をし、小走りでエレベーターから離れる。
まさか専務がここにいるなんて。
しかもあんな場面を見られるなんて。
自分の運の悪さを天に呪いたくなる。
未だ背中に視線を感じるのは、彼の存在感がありすぎるせいだと思いたい。
でも、彼しか目に入らなかったけれど、他にも黒いスーツ姿の人が立っていた気がする。
もしも重要なお客さまだったらどうしよう!
あんなの絶対会社のイメージダウンになってしまう。
「うーっ、どうしよう」
不可抗力とはいえ、専務に迷惑をかけてしまったかもしれない。
頭を抱えて座り込みたくなるが、台車の柄を支え代わりにして、なんとか受付カウンターまで歩いていく。
すると、私に気づいた塩田さんが笑顔を向けてくれた。
えくぼの癒し笑顔が、へこんだ心をちょっぴり和ませてくれる。
さっき内線に出てくれた子は、塩田さんの横で郵便物の仕分け作業をしていた。
さすが全部署分、量が半端なく多い。
「神崎さん。お待ちしてました。すみません、お忙しいのに急がせてしまいまして」
「いいえ。こちらこそすみません。宅配が来てることを知らなかったものですから、遅くなりました」
そう言うと、塩田さんはキョトンとして私を見た。
「あれ?竹下さんは?」
「は・・・竹下さん、ですか?」
予想外の名前が出て話が見えず、私も塩田さんと同じようにキョトンと見つめ返す。
すると彼女は、社員食堂で竹下さんに言伝を頼んだと話した。