オオカミ専務との秘めごと
残念そうに私を見る彼は、スウェット姿のままで新聞を手にしていた。
側頭部にピコンと跳ねた寝癖が付いていて、なんだか子供みたいで可愛い。
いつもピシッと決めていて、サラサラで癖のない髪なのに。
クスッと笑いを漏らすと、彼に手首を捕まえられた。
「何がおかしい」
「だって、ここに寝癖が付いてます」
私が指で示したら、彼はその部分を撫でて少し渋い顔をした。
「・・・昨日は髪を乾かさずに寝たからな」
「あ・・・」
そうか、あのとき彼は自分の髪は乾かしていなかったんだ。
私ばかりほわほわに温かくなって寝てしまって、彼が風邪をひいていないといいけれど。
「ごめんなさい」
「別にお前のせいじゃないぞ。俺が、そうしただけだから、気にするな」
私を見つめる大神さんの目は優しい。
私はこんなに甘やかされてもいいんだろうか。
これは“彼女まがい”のお仕事なのに、自分の立場を忘れてしまいそうになる。
彼は私の雇用主、勘違いをしたらいけない。
これ以上好きになったらダメなんだ。
捕まえられていた手を振り払って、笑顔を作って向ける。
「あの、私、朝食を準備しましょうか。キッチンはどこですか?」
「それなら俺も一緒に準備する」
新聞をテーブルに置いた大神さんと一緒にキッチンに入る。
そこにある、大きなシンクのシステムキッチンに感嘆の声を漏らしてしまった。