オオカミ専務との秘めごと
外に出ると日はとっぷりと暮れていて、身支度に相当の時間を費やしたことがわかる。
オオガミホテルに着いた頃には丁度パーティの始まる頃だった。
ホテルの大広間の入り口には、『オオガミホテル創業五十周年記念』と書かれた看板が立てかけられている。
「招待客は各界の重鎮で、外国人も多い。お前は、俺の隣で笑っていればいい。迷子にならんように、俺から離れるな」
「はい、分かりました。しっかり努めます」
パーティが始まれば、御曹司である大神さんには挨拶に来る人が途切れない。
大抵の人は私を見て大神さんに紹介を求め、私はひたすら笑顔で応対する。
政治家の方もいて、私には理解できない雲上の話をされる。
難しいお話にもそつなく相手をする大神さんは、さすが御曹司だと感心してしまう。
こんなところを目の当たりにすると、生まれの差を実感する。
世が世なら、お殿様と城下町の花売り娘くらいの差だ。
どんな世界の人間関係でもよくある、嫌味を言ってくる人にも、彼はさらりとかわしている。
やっぱり彼は完璧で、どこにも弱点がないのだ。
強いて言えば、怖がりなところくらいか。
挨拶の人が途切れると、大神さんと一緒に料理が並ぶテーブルに移動した。
ローストビーフにキャビアにお刺身にケーキ。
パッと見ただけでも普段お目にかかれない食材がいくつも目に入る。
「お腹が空いただろう」
「はい。ペコペコです」