オオカミ専務との秘めごと
春の訪れ


『一週間ほどドイツに行ってくる。戻ったら、お前に伝えることがある』


パーティの帰り道、私にそんなことを言った大神さんは今、飛行機に乗って雲の上にいる頃だ。

ソーセージマイスターのゲルハルト氏に会って本契約し、日本での販売の話を進めるんだそうで、日曜の夜に出発すると言っていたから。

延び延びになっている主任課長会議は、予想していた通りにソーセージ販売のことだった。

大神さんとしては本契約前に日本で話を詰めてゲルハルト氏にぶつけるつもりだったが、先方の方から乗り気の連絡を受けたので、ここのところずっと奔走していたと話してくれた。

女性とデートしていたわけじゃないらしい。


私に『伝えること』って何だろうか。

彼には思う人がいるって塩田さんから聞いているし、やっぱり雇用関係のことについてかな・・・。

解雇を言い渡されたらこの先どうするか、考えないといけない。

でも、もしも万が一、その逆だったら?


部屋の壁にあるフックにはパーティで着たイブニングドレスがかけてあり、バッグはローチェストの上に置いてある。

高級で美しいそれらは、和風なボロい部屋にはあまりにもちぐはぐで、目にするたび彼と私の差を見せつけられる。

そして、これ・・・。

手元には、あのとき大神さんがつけてくれたアクセサリーがある。

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