オオカミ専務との秘めごと
だけど、今の私は、どうにも時計ばかりを気にしてしまう。
課長たちと同じようにそわそわしてしまうのだ。
それは久しぶりに彼に会える嬉しさと、何を伝えられるのかわからない不安と、私が彼に言わなければならない緊張感と、全部がないまぜになっているから。
こんな複雑な気分になるのは初めてで、どう対処していいのか分からない。
目の前の仕事に集中しようにも、すぐに気が逸れてしまう。
「あー、駄目だ」
つい漏らしてしまった声を、佐奈が聞き取ってすぐに反応してきた。
「どうかした?菜緒が仕事中にそんなこと言うの珍しいじゃない。そんなに難しいの?」
どれどれ私に見せて見なさい、というようにパソコン画面を覗きにくるから、それを制した。
「あ、ちがうの。煮詰まっただけだから。気にしないで」
そう?と言って自席に戻っていく彼女に「お手洗いに行ってくるね」と言い残して席を立った。
少し気分転換が必要だ。
部屋からでると、廊下の向こう側から長谷部さんが歩いてくるのが見えた。
私に気づいて、手をあげて近づいてくる。
「俺、昨日人事部長から海外赴任の打診を受けたよ。キミもだろ?」
「はい、私は先週言われました。今週末までに返事をするようにって。長谷部さんは、どうするんですか?」
「俺は、行くよ。今人事部長に返事をしてきたところ。期間は約二年だと言ってたな」