オオカミ専務との秘めごと
スキルアップのチャンスをもらえたのが嬉しいと言う長谷部さんの目は、今までに見たことがないくらいにきらきらと輝いていて、やる気に満ちているのが分かる。
佐奈のことは、どうするんだろうか。
「三倉には折を見て話すから、キミは黙っててな」
「はい、分かってます」
「アイツのことだから、何で私に言うの!?と言いそうだけど」
長谷部さんは佐奈の口真似をして、肩をすくめるけれど、今の彼女は少し違う反応をするかもしれない。
なんとなく、そう思えた。
「で、キミは、どうするつもり?」
「まだ、決めかねています」
「そう、か。キミが一緒に来てくれれば心強いけどさ。女子だし、まあ無理はすんなよ」
長谷部さんはじゃあな!と爽やかに去っていく。
彼を見ていると、男性とは強いものだと感じる。
恋よりも仕事を選んで、目先のことよりも将来を見据えているんだ。
三時少し前、課長たちが連れ立って会議室まで行くのを見届け、佐奈と一緒に給湯室でお茶を入れて運ぶ。
会議室に入って一礼をして顔を上げると、一瞬だけ専務と目が合ってしまい、全身が痺れたような衝撃を感じた。
胸が高鳴り、体の隅々まで酸素がいきわたって、細胞が活性化するのが分かる。
ついさっきまですごくそわそわして不安だったけれど、それが帳消しになるくらい心が浮き立つ。
彼のことをこんなに好きになっているなんて、自分でも思っていなかった。