オオカミ専務との秘めごと
平静を装って専務にお茶をお出しすると、彼のムスクが鼻をくすぐって、それだけで幸せな気持ちになれた。
彼が雲の上の人だとか雇用主だとか、そんなことは全然関係なく、単純に私は彼のことが好きなんだ。
会議室には長谷部さんの姿もあった。
まだ主任ではないのに入っているということは、向こうでこの仕事に携わるからだろう。
佐奈は「何で長谷部さんが入ってるの?」と首を傾げていたけれど。
それから一時間半ほど経った頃、課長たちが真剣な様子で話をしながら部に戻ってきた。
佐奈は問い合わせの電話応対中で、しばらくはデスクから離れられそうにない。
『会議が終わったみたいだから、片付けてくるね』
メモを書いて佐奈のデスクの上に置き、会議室に向かった。
中にはもう誰もいないと思うけれど一応ノックをし、ひと声かけて入る。
すると、一人だけ残っていた人が私を見てふわりと微笑んだ。
「あ・・・」
まさかいるとは思わず、全身が棒のようになって立ちすくむ私のそばまで来た彼が、後ろにあるドアをちらっと見た。
「・・・お前一人か?」
「はい。佐奈は今、手がはなせないので、とりあえず一人で片付けに」
「それなら、すぐに来るかもしれんな。手短に話す。俺は出立する前に、お前に“伝えたいこと”があると言ったのを覚えてるか?」
「はい。覚えています」
「近いうちに、会う日時を連絡する。いいな?」