オオカミ専務との秘めごと


「はい、それであの、私にもお話したいことが、あるんです」

「お前が、俺に話したいこと?」


彼は少し眉を歪めて私を見るけれど、今しかないとばかりに勢いに任せて言葉をつづける。

だって、赴任の返事は週末までにしないといけないから。


「はい、レンタル雇用に関することなんです。実は、私に」


そこまで言うと背後のドアがバッと開き、専務は素早く私のそばから離れた。


「ごめーん!菜緒。遅くなっちゃったー。もう、先方がなかなか分かってくれなくて・・・あっ!やだ、申し訳ありませんっ。専務がいらっしゃるとは思わずに」


居住まいを正して恐縮する佐奈に対し、専務は「いや、構わないよ。片付けご苦労さま」と労いの言葉をかけ、会議室から出ていった。

その背中を見送った佐奈は、ほぅっとため息を吐く。


「やっぱり専務は素敵だね。あんな人の心に住んでる人は、すごく綺麗で素敵なんだろうね。相手もセレブな人に違いないわ。あ・・・ごめん、菜緒。つい」

「ううん、いいよ。やっぱりそう思うよね、そうでないと釣り合わないもん。さ、早く片付けようか」


佐奈の言うことはもっともなことで、私もそう思うのだから無理はない。

私と彼では月とスッポンだ。

水に映る美しい月は、手が届きそうで届かなく、見るだけに留めておくものだ。

彼のことはすごく好きだけど、今のままでは、気持ちを打ち明けることもおこがましく思う。

スキルアップして、自分に自信が付けられれば違ってくるのかな。

海外赴任の話受けてみようか。

彼に会って、そんな気持ちになった。


その日の夜、ピンクスマホにメールが入った。


『明日。仕事が終わったら駐車場で。場所は柱の陰』


いよいよ、明日話がある・・・。



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