オオカミ専務との秘めごと
翌日。いつもと違う緊張感を持って出勤し、通常業務をこなしていると、三時を過ぎた頃楢崎さんから呼ばれた。
総務部から内線が入っているという。
「総務から?」
私に直接の内線ではなく、楢崎さんを通すなんて珍しい。
少し嫌な予感を感じながら受話器を取ると、男性社員の事務的な声がした。
『神崎菜緒さん、警察署から電話が入っています』
「え・・・?」
警察から?
両親が事故にあった知らせを受けたことがありありと蘇り、通話ボタンを押す手が震えた。
「はい、神崎菜緒です」
『念のため、あなたの弟さんのお名前を教えてください』
「はい、神崎雄太です」
『今日の昼頃、神崎雄太さんが事故にあいました。A病院に運ばれ、現在手当てを受けています』
耳にした瞬間目の前が暗くなり、まわりの音が聞こえなくなった。
けれど、受話器を落とさないように握りしめ、一言一句訊き洩らさないよう懸命に努める。
通話後、楢崎さんに小声で内容を説明して、しばらくお休みをもらう承諾を取り、海外赴任の話は一旦断ることを伝えた。
「菜緒、どした?何があったの?顔真っ青だよ!?」
「ごめん、佐奈。私早退するね」
今は佐奈に説明する時間も心の余裕もない。
素早くデスクの上を片付けて、小走りで会社を出る。
電車の中でピンクスマホに今日は会えないことを書いてメールを送り、いったんアパートに戻って、旅行鞄に着替えその他を適当に詰め込んだ。