オオカミ専務との秘めごと
新幹線に脚をかけると、彼は焦ったような声で「行くな!」と言った。
「俺は、お前が好きだ」
「え・・・?」
乗り降りする人の声と足音に交じり、一瞬耳を疑ってしまった。
でも今、確かに言った。私のことが好きだと。
「うそ・・・私の、どこが、ですか?貧乏で美人じゃないし、大神さんには、とても釣り合わないのに」
同情を愛情と錯覚しているんじゃないだろうか。
それならば、私は辛い。
「全部、だ。俺に取り入らないところも。ホラー好きなところも。今まで懸命に生きてきたところも。素直なところも。笑顔も。怒った顔も。一緒にいると安心できるところも。子供にやさしいところも。お前の全部が愛らしい。誰にも渡したくない」
「愛らしいんですか?でも・・・顔は、スナフキンですよ?」
「俺は、スナフキンが、好みなんだ。一生俺のそばにいてほしい。守るから。俺のことが少しでも好きなら、四の五の言わずに腕の中へ来い。一生をかけて、俺に惚れさせてみせるから」
発車のベルが鳴り響き、駅員さんがアナウンスを始める。
今、彼の腕に飛び込まなければ、私は一生後悔する?
でも、私と彼では、大神グループがNOと言うんじゃないだろうか。
貧乏で、両親もいない私なんてふさわしくないと。
でも、彼はそんな私でもいいと言ってくれている。
何故か息を切らしてここにきて、私に行くなと言う。
雄太、私はどうしたらいい?
『何言ってんだよ』
『思い切って飛んでみろよ』
『気にすんな』
雄太のくれた言葉が次々に浮かび、頭の中でどんどん大きく広がって心の中に響く。