オオカミ専務との秘めごと
そうだった、雄太はそう言うんだった。
「私も、大神さんが好きです」
腕を広げて待っている彼のもとに飛び降りると、きつく抱きしめられた。
新幹線のドアが閉まり、頭の上から彼の大きなため息が聞こえてきた瞬間、まわりから拍手が沸き起こり、すごく目立っていたことを知る。
「あの、大神さん、すごく恥ずかしいです」
「まあ一種の公開プロポーズ、だな。振られたら俺は泣いていたかもな。まったく、こんなに翻弄されて、追いかけた女は初めてだよ」
周りからは「よかったな!」「幸せになれよ!」の声も聞こえてきて、大神さんは「ありがとう」と返している。
彼は全然堂々としていて、私だけが恥ずかしさに耐えている。
こんなの不公平だ。
それに、私は行かなければならないのだ。
突然のサプライズによって、一本遅れてしまったではないか。
うれしいけれど・・・。
「あの、次の新幹線に乗りますから」
「お前は、どこへ行くつもりだ?」
「弟のところです。事故にあって入院したと連絡があったので」
「あー、そうだったのか。すまん、まさかそんな理由とは・・・。よし、ならば俺も行く」
「え?」
大神さんは新幹線の切符を買い、どこかにスマホで連絡をしている。
多分、会社だと思える。
道中彼は、こんな行動をとった理由を説明してくれた。
会議室で私の言ったことを、ずっと悶々と考えていたらしい。
『レンタル雇用のことなんです。実は私に』
この、私に、で切れたその先は何だ?と。
まさか“彼氏ができました”だろうか。
だからレンタルはできませんと言う話か?と。
そこへ、私の『約束はナシにしてください』のメールが入り、とにかく“伝えなければ!”という思いに駆られたらしい。
で、ピンクスマホのGPS機能を使ってみれば、新幹線のホームだったと。