オオカミ専務との秘めごと
「菜緒がお世話になった親せきの家にも挨拶に行かないとな。会わなければいけない人は、それくらいか?」
「そう、ですね。・・・あ、もうひとり会ってほしい人がいます」
「もうひとり?一人と言わず、この際何人でも会うぞ。誰だ?」
「新聞屋の店長です」
そう言うと、彼は少しキョトンとした。
そう、店長には、彼ができたら会ってもらう約束がある。
私は九年間勤め続けた新聞店の外観を思い浮かべる。
そこにいる店長に仕事仲間たち。
彼らも、私のことを心配してくれた大事な人たちだ。
会ってほしいと思う。
『私が、菜緒ちゃんにふさわしい人かどうか見極めてあげる』
あのときのことを思い出して、クスッと笑いをこぼした。
「何がおかしい?」
「なんでもありません。ただ、幸せだなーと思ったんです」
「これから、何度でもそう思わせてやるから」
「はい。よろしくお願いします」
不安もあるけれど、きっと、大神さんとなら乗り越えていけると思えた。
私の彼氏ですって紹介したら、きっと、店長はつぶらな瞳を大きく開けてこう言うに違いない。
「あなたなら、合格!」と。
【完】