オオカミ専務との秘めごと
ずっと顔を見つめていると、男性は一瞬怪訝そうな顔をしたあと、あ!と小さな声をあげた。
「あんた、新聞屋のスナフキンか?」
「スナフキン、って・・・あーっ!あなたは、今朝のヤクザな浮気男!!」
「人聞きの悪いこと言うんじゃねえ。俺はヤクザでも浮気男でもねえよ」
「じゃあ、何であのとき・・・じゃなくて、なんであなたがここにいるんですか」
「それはこっちの台詞だ」
事故りそうになって、このヤクザ男に初キスを奪われ、彼女持ち男の浮気相手にされそうになり、迷子になってまたこの人に会うなんて、今日はなんて日なんだろう。
朝からの出来事を思い返していると、悲しみがこみあげてきて視界が滲んできた。
ただ真面目に生きてるだけなのに、世の中ってなんだかとっても理不尽だ。
「あなたのせいです」
「は?何言ってんだ」
「全部あなたのせいなんです!」
「ちょっと待て。意味がわからん。それにこんなとこで泣くな」
コンビ入り口のゴミ箱のそば。
人の行き来が激しいそこで泣いている私は、さぞかし目立っているだろうし、かっこ悪い。
でもそんな恥ずかしさよりも悲しさの方が勝ってしまい、せきをきったように流れる涙はどうにも止まらなかった。
「あーっ、仕方ねえな。ちょっとこっちに来い」
急に手首を掴まれて引っ張られ、抵抗するもすごい力で振りほどけない。
おまけに泣いているせいで声も出しづらく叫び声が出ない。