オオカミ専務との秘めごと
「ちょ・・・どこに、連れて行く気ですか」
やっとのことで絞り出した声は、かすれて弱弱しかった。
「人目につかないところ。あんな目立つところで泣かれたら、俺が困るんだよ」
強引に引っ張られて来た場所は、小さな公園だった。
無人のブランコがキイキイと風に揺れて寂しそうに見える。
街灯の下にあるベンチに座らされ、ヤクザ男も隣に座ってガサゴソとコンビニ袋をいじった。
「ほら、飲めよ。飲めるんだろ?」
そう言って缶ビールを私に差し出すから、受け取るべきか少し考えてしまう。
「どうせ部屋に帰っても一人で飲むんだ。ちょうどいいから付き合え」
「・・・ありがとう」
受け取ると、ヤクザ男も缶ビールを出してカシッと飲み口を開けて一口飲んだ。
なので、私もビールに口をつける。
さっきまで感じていた悲しみが、ビールの液体と一緒にお腹の中に納まっていく。
考えてみれば、泣いたのは両親を亡くしたとき以来だ。
「そういえば、あんたこんな時間まで起きてていいのか。よく知らんが、新聞屋は朝早いんだろ?」
「あ、いつもは九時に寝てるんです。でも明日は休み。だから、今日は思い切り夜更かし」
「へえ、新聞屋にも休みがあるのか」
「当然ですよ。ちゃんと交代で休みを取って、前もって言えば連休も取れるんですから。そこは普通の企業と一緒です」