オオカミ専務との秘めごと
すると、ヤクザ男はふーんと興味なさそうに鼻を鳴らした。
泣いた理由も聞かず、何をするでもなく、ただ一緒に缶ビールを飲むだけ。
私に興味がないから聞かないだけかもしれないけれど、それがなんだか心地よく感じる。
それに彼の顔は整っていてモテそうだから、泣く女の扱いには慣れているのかもしれない。
朝の彼女とは、仲直りできたんだろうか。
相当怒っていたから、さすがにまだ喧嘩中かな。
ビールを飲みほして空を仰ぎ見る。
体がぽかぽかしてすごく気持ちがいい。
名前も知らない男と二人で酒を飲むなんて、これって十分羽目を外している。
それに、知らない女に、もう一本飲むか?とビールをくれるヤクザ男はすごく変わっていると思う。
ありがたく受け取って、缶の口を開けて飲んだ。
どれくらい時間が経ったのだろう。
泣いて目が疲れたせいだろうか、すごくまぶたが重いのだ。
そういえば、朝から全力疾走して疲れていたっけ。
「今、何時かな・・・」
バッグからスマホを取り出そうとするが、手がおぼつかなくて時間確認は諦めた。
だめだ、すごーく眠い・・・。
ここが公園だとか、初キスを奪ったヤクザ男が一緒だとか、そんなことはどうでもよくなるくらいに、体が重くて眠い。
こてんと体を傾けると、頭がちょうどいい何かに収まった。
その安心感が一気に眠りへといざなう。
「おい、スナフキン。酔ったのか。こんなところで寝るな」
「ん・・・ほうっておいて、ください・・・」
ヤクザ男が肩を揺らすのを感じながらも、意識は深い底へ沈んでいった。