オオカミ専務との秘めごと

リビングに戻ると彼はコーヒーを飲みながら新聞を読んでいて、それがうちの扱いの銘柄でちょっとうれしくなる。


「シャワーありがとうございました。それに、泊めてもらえて助かりました。何かお礼をしたいんですけど・・・」

「別に礼なんかいらねえよ」

「でもここまで運んでくれたんですし、一宿の恩は返したいです」

「へえ、結構律儀だな。じゃあ、あんた、今日これから時間あるか?」

「はい?特に予定はありませんが」

「じゃあ、出かけるぞ。付き合ってほしいところがある」

「でも私、今すっぴんで。出かけるにはちょっと。他の事で手を打ちませんか」


苦笑しながら断ると、彼はまじまじと私の顔を見て首を傾げた。


「今までメイクしてたのか。あんまり変わらんから、そのままでいいぞ。支度してくるからちょっと待ってろ」


変わらないと言われて少しムッとするけれど、そういえばそうだと気付く。

彼との初対面はすっぴんで、昨夜は泣いてしまってほとんどメイクが取れていたはずだ。

まあ実際メイクをしても、ナチュラルだからすっぴんとそう変わらないかもしれない。

下着といいメイクといい、いくら自分にお金がかけられないとはいえ、私ってほんと女子力が皆無だ。


「おい、行くぞ」


チャラッと鍵の音をさせて現れた彼は紺色のシャツにジーンズ姿で、黒のダウンジャケットをサッと羽織った。

リビングから出て、スタスタと玄関の方へ向かっていく。


「あ、待ってください」


私も慌ててコートを羽織り、彼の後を追いかけた。

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