オオカミ専務との秘めごと
「ああ、やっぱり混んでるな」
「・・・そうみたいですね」
彼に連れられてきたのは、車で一時間ほどのところにある『うさぎの森』というスウィーツカフェだった。
並んでいるのはほぼ女性で、ざっと見た感じでは三十人ほどいる。
「並ぶんですか?」
「当然。入るために来たんだからな」
ここは森をコンセプトにしたお店で評判がよく、前から気になっていて、一度は来たいと思っていたという。
「かといって、男が一人で来るには恥ずかしいだろう」
確かにそうだ。ただでさえ男性が並んでいるのは珍しいのに、彼のように背が高くてイケメンな人だと余計に目立ってしまう。
あの喧嘩をした彼女は、ここに付き合ってくれなかったんだろうか。
「甘いもの、好きなんですか?」
「いや、嫌いだ」
「え?じゃあ、どうして?」
「仕事柄こういう流行りを知っておく必要があるんだよ。あんたはしっかり味のレポートしてくれ」
「了解。甘いもの大好きなんです。お任せください!」
仕事柄か・・・一体どんな仕事をしてるんだろうか。
ヤクザじゃないことだけは、分かってきたけれど。
じゃあどうして、ヒヤリハットの一件を“黙ってろ”なんて言ったんだろう?
最後尾だった私たちの後ろに人がどんどん加わり、同時に前にいた人たちがお店の中に入っていく。
四十分ほどして、ようやく私たちの番がきた。