オオカミ専務との秘めごと
オオカミの屁理屈
月曜の朝。
新聞配達を終えてアパートに戻った私は、テーブルに向かって正座をし、バッグに押し込んであった紙を出して丁寧にシワを伸ばした。
土曜日は動揺して震え、日曜日はメモなど忘れたふりをし、そして今日の今になってようやく向き合うことにしてみたのだ。
ただの白いメモ用紙だと思っていた紙は、オオガミホテルのノベルティで、紙の下部分に薄青いインクでロゴが入れられている。
紙を見れば見るほど、とんでもない人と一夜を過ごしてしまったのだと実感して、冷汗がたら~りと流れる。
あんな雲上の人と一緒に缶ビールを飲み、公園から運んでもらった上にベッドを共にするとは、何たることだろう。
しかもヤクザの浮気男呼ばわりなんて失礼なこともした。
なによりも・・・新聞屋の私がオオガミフーズの社員と知れたらどうなるか。
即クビ・・・!
名画『ムンクの叫び』のように、頬を両手で押さえて叫びたくなる。
これは決してバレてはならない。
──大神孝太郎。
大神グループの御曹司。
グループ企業には、オオガミホテル、オオガミ運輸、オオガミデパート、そして私が勤めるオオガミフーズがある。
大神さんは、半年前に海外から戻られてオオガミフーズの専務になったばかりの人だ。
就任したての頃、佐奈たち女子社員が「素敵!」とか「カッコイイ!」とか大騒ぎしていたのを覚えている。