オオカミ専務との秘めごと
そのとき私は繁忙期で仕事を片付けるのに一生懸命で、社内報を見てお名前を覚えただけで、ろくにお姿を見ていなかった。
だって、九時に寝るには七時には会社を出たいから、繁忙期になると毎日がとんでもない修羅場になるのだ。
それから社内で一度もすれ違ったことがないし、そもそも接点がないからよく知らないまま過ごしてしまっている。
そりゃあ会っても気づかないよねと自分を納得させるけれど、無知は否めない。
「・・・ああ、もう自分が情けない」
『電話しろ』
もちろんしてない。
だって、そんなのとんでもないことだ。
でも、大神さんは、どうしてこのメモを私なんかにくれたんだろうか。
どうして、電話しろと言ったんだろうか。
「うーん」
メモを凝視し、唸りながらぐるぐる考えていると、いつの間にか出勤時間が迫っていて急いで支度を始める。
せっかくいつも通りに配達を終えたのに、ぐずぐずしていると金曜みたいなことになる。
メモをタンスの引き出しに仕舞い、速攻で身支度をして、自転車を駅までかっ飛ばした。
おかげでいつもの時間に通勤電車に乗ることができ、ゆっくり会社に出勤する。
新聞配達をしていても、営業部の誰よりも早く出勤できるから、かけもち勤務ができているのだ。
それに、私が来る時間は、他のフロアにいる社員にも会うことも少ない。