オオカミ専務との秘めごと


朝一のルーチンワークを終え、早速集計を始める。

金曜にまとめた用紙の束は店舗ごとに分けてあるので、先ずは一番量の多い店のを取り出した。

はい、いいえ、などの単純な選択項目はカウントして集計ソフトに入れていく。

束ごとに繰り返すだけだが結構集中力のいる作業で、カウント途中に話しかけられてもすぐに返事をすることができない。

しばしば私に用事がある人を、デスクの横で待たせることになってしまう。

今も、そう。

グレーのスーツを着た人が視界の隅に入っている。

「まだ?」という感じのイライラしてる気が伝わってくる人と、幽霊のように気配を消して一段落するのをじっと待つ人がいる。

今横に立っているのは後者のタイプ。

キリがついて見上げると、そこにいたのは、営業第二課の長谷部紀和さんだった。

二年先輩で普段は接点がなく、同じ一課の後輩社員だと見当つけていたから、意外過ぎて一瞬目を疑ってしまう。

長谷部さんは、じーっとデスクの上を見つめたまま微動もしない。

私に用があって来たんじゃないんだろうか?


「あの、長谷部さん?何かご用でしょうか?」

「あ、もう話しかけていいのか。キミ集中力半端ないな。紙をめくるスピードとカウンターを操作する指。あまりの手際の良さに感心して、つい見惚れちゃったよ」

「あ、ありがとうございます」

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