オオカミ専務との秘めごと
「おい、待て」
そんなことを言われても待てない。
後先考えずに、今は逃げるのみ!
脱兎のごとく走り出そうとしたら、ガシッと腕を掴まれた。
「待てと言ってるだろうが。新聞屋の、スナフキン」
低めの脅すような声にごくりと息をのんで振り返ると、大神さんが私を睨むように見下ろしていた。
こうなったら、しらを切りとおすしかない。
「し、新聞屋のスナフキンとは、な、何のことでございましょう?さっぱり分かりませんが」
すると、大神さんの眉がぴくんと上がった。
「ほう、分からんと言うのか。ならば、ちょっとこっちへ来い」
ぐいぐいと引っ張られて小道に入り、どこかのドアを開けて階段を降り始めたのですごく焦る。
何を考えてるか分からないが、これは超マズイ展開。何とかせねば!
「あの!お人違いではないでしょうか?えっと、人にはそっくりさんが三人はいると言いますし!?その、新聞屋のスナフキンさんは別の人ではないですか?」
「まだ言い張るか・・・じゃあ、思い出させてやろうか?」
「は?」
ぴたりと止まって振り返った大神さんの腕がパシッと壁を打ち、私を壁との間に閉じ込めた。
見下ろしてくる瞳がぎらっと光って、まるでオオカミが獲物を狙うかのように見える。
「これを、忘れたとは言わせねえぞ」
「何をする・・・」