オオカミ専務との秘めごと
「でも菜緒ちゃん、ここを辞めてどうするの?いろいろ困るんじゃないの?」
「それは、大丈夫です。重役さんの心遣いで、ここを辞めても大丈夫なようにしていただけましたので」
「そう?それならいいけど。困ったことがあったら、いつでも頼っていいのよ。菜緒ちゃんは私の娘みたいなものなんだから」
「はい、店長。ありがとうございます」
二人して涙を拭いていると、みんなが配達から戻ってきた。
「え!神崎さん、辞めるんですか!?」
店長から話を聞いた学生の男の子が、素っ頓狂な声を出してポカンと口を開けた。
みんなも声には出さないものの、呆然と私を見ている。
私が辞めることは、それほどに意外なことなのだ。
なにせ、九年もここにいたベテラン組で、あと二年半は辞めません!と言っていたのだから。
「はい。みなさんには、急でご迷惑かけます」
「うわー菜緒ちゃんがいなくなると、華がなくなるなー」
七十過ぎのおじいちゃんバイトさんも残念そうに苦笑いをする。
「あら!華ならここにいるじゃないの。私たちじゃ不満なの?」
「ねー、店長。ほんと失礼よねー」
店長とおばちゃんバイトさんが腕を組んで男性陣を睨み、どっと笑いを誘う。
みんなあたたかい人たちばかりで、いいところで働けて良かったと心底思う。
「ね、今日は土曜だし。みんな時間があるでしょ。今からささやかなお別れ会しようか」
店長がそう提案すると、学生の子が買い物を買って出た。