オオカミ専務との秘めごと


おにぎりにお茶にジュースにお菓子。

いつもチラシの折り込み作業をするテーブルの上に並べ、みんなで乾杯をした。

なごみ始めると毎度のことながら、話が自然に私の彼氏の有無になっていく。

まだ二十代半ばとはいえ、四捨五入すれば三十歳。

みんなが興味あるのは仕方がないことだ。

これも最後だと、苦笑いをしながら話に付き合う。


「まだ、いませんよ」と言うと、「何で、こんないい子を放っておくかなー」とか「世の中の男は見る目がない!」とか、お世辞たっぷりになるのも毎度のこと。

そして、店長が最後に「私が男なら菜緒ちゃんを選ぶ!」と言って締めるのだ。


でも、今日の最後の台詞はいつもと違っていた。


「菜緒ちゃんに彼氏ができたら、一番に私に紹介して頂戴。私が、菜緒ちゃんを幸せにできる男かどうか見極めてあげるから。ね?」

「そうそう。店長は人を見る目だけはあるんだから」


おばちゃんが冗談を入れると、だけは余計なの!と、店長がプンと怒るから、また笑いが起こった。


「私、菜緒ちゃんには絶対に幸せになったもらいたいの。もしも変な男だったら、ここで雇って性根を叩きなおしてあげるから」

「はい。店長、お願いします」


高校生の頃からずっと私を見守っててくれた店長は、仕事の上司でもあり、ときにお母さんがわりでもあった。

恋人ができたら、必ず店長に紹介することを約束した。


最後にみんなと写真を撮って新聞店から出る。

『塚原新聞店』の外観を眺め、愛用のバイクにも別れを告げ、九年のバイト生活を終えた。


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