オオカミ専務との秘めごと
大神さんは一度ですんなりバック駐車を決め、エンジンを止めてシートベルトを外した。
「ちょっとそのまま待ってろ」
そう言い残して視界から消えてしまい、私は一人で車内に残る。
ここには、彼だけが用事を済ませるために来たんだろうか?
本来の目的地は、どこなんだろう。
そう思ったのも束の間、急に助手席のドアが開いてひんやりした空気が入り込んできた。
彼がドアを押さえて立っていて、流れるような動作で手が差し出される。
こんなことをされるのは初めてで、どうするのが正解なのか判断がつかない。
「あの?」
戸惑って見上げると、彼はフッと笑った。
「ほら、手を出せ」
こんなシーンを外国映画で見たことがある。
でも、レディファーストの文化がないこの日本で、実際にする人がいるなんて思いもしない。
おずおずと手を伸ばしたら、指をそっと握られた。
そのまま優しくリードされて車から降りる。
すごく無理のない動きで、大神さんはこういうことに手慣れていると思えた。
さすが、御曹司。
心の中で感心していると、彼は私に、そのまま動かずに立っているように言う。
「あーそうだな、少し髪を上げろ」
「はい?こうですか?」
訳が分からないまま手グシで後ろ髪を束ねて少し上にあげると、キラッと光るものを持った彼の手が私の視界を掠めた。