オオカミ専務との秘めごと
一瞬のことで、え?と思う間もなく、胸元に少しの重みとうなじに金属の冷たさを感じる。
何の飾り気もなかった胸元には、ピンクパールのネックレスが艶々と光っていた。
紺のニットに映えて、すごく可愛い。
「あの、大神さん、これは?」
「つけてろ」
「でも、こんな高価なもの」
「働きやすいように心配りをするのは、雇用主である俺のつとめだ。今はそれがあった方がいい。ほら、行くぞ」
つかまれと促されて、大神さんの腕に手を預ける。
ここが何処なのかとか、何をしに来たのかとか、そんなことどうでも良くなるくらいにトクトクと胸が鳴って、なだめるのに苦労する。
大神さんは不意打ちばかりだ・・・。
エレベーターに乗って、ようやくここが何処なのかが判明した。
壁には、古代中国の北京を舞台にした歌劇『トゥーランドット』のポスターが貼られてあり、その衣装と舞台セットの豪華さに目を見張った。
「ここはオペラ劇場ですか!」
オペラ!なんてセレブな響きだろうか!
唖然として、ただポスターを眺めていると、「そう、これを今から観るんだ」とさらりと言う。
知人からチケットをもらったはいいが一緒に観る人がいなく、危うく無駄になるところだったという。
道理でスーツを着ているはずで・・・。
オペラ観劇といえば、ロングドレスなどでドレスアップした女性たちのキラキラしたイメージが浮かぶ。