オオカミ専務との秘めごと
私は本当に、この格好でいいんだろうか?
オペラなら、そうと言ってくれれば、もっと違う服にしたのに。
・・・とは思えども、クローゼットの中にある手持ちの服は、今とさほど変わらないことに気づいてがっくりと肩を落とす。
きっと、レンタルドレス屋さんまで自転車をかっ飛ばしたことだろう。
大神さんはそれが分かるから、行き先を言わずに『普段の格好でいい』と言ったのか。
それにピンクパールのネックレスも、私の服装を見越して準備していたのだろう。
でもいくらパールがあっても、これではセレブな人たちの中で一人浮いてしまうのでは・・・。
「そんな不安そうな顔をするな。みんなカジュアルで来ているから平気だぞ。オペラを楽しめ」
「・・・はい」
大神さんの言う通り、ロビーにはゲストドレスを着た女性の姿はほとんどいなくて、みんな私と似たようなスタイルをしていた。
大学生くらいの若い男性もちらほらいて、ロビーの内装もよくある公共施設みたいな感じだ。
私が思うよりもずっと気軽な雰囲気にホッとする。
が、またそれも束の間で。
会場に一歩足を踏み入れて、その荘厳な空気に息をのんだ。
板張りの壁に優雅な曲線を描くバルコニーがずらりと並び、暖色系のライトが会場内を黄金色に染めあげる。
なんともきらびやかな空気に見惚れてしまい、声も出せずにいる私を誘導して、大神さんは二階席の最前列まで行く。