オオカミ専務との秘めごと
この席だと示され、列のど真ん中の席に座る。
舞台は真正面で視線の下にあり、遮るものがなくてとてもよく観えそうだ。
首を伸ばして一階席を覗き見れば、席を探して歩いてるのは綺麗な服を着たセレブ感溢れる方々ばかり。
中には本気のドレスアップをしている女性も見える。
でも二階席はそれほどでもなく、私たちの後ろに座っている人たちはロビーで見た感じの服装が多い。
これなら私も浮かずにいられ、大神さんの言う通りに楽しめそうだ。
開演時間が迫り、満員になった会場内のざわめきが耳に届く。
けれど、私と大神さんのいる座席の列にはまだ誰も来ず、振り向けば、真後ろの列にも誰も座っていなかった。
もしかして、もらったチケットは、ここ全部の座席分なんだろうか。
オーケストラのブースに人が入り始めると、彼が舞台を指さした。
「歌も台詞も全部イタリア語だが、字幕があの部分に出るから大丈夫だ。誰もが一度は耳にしたことがある歌がある。それは素晴らしいぞ」
「はい、楽しみです」
開演のアナウンスがあり、徐々に照明が暗くなっていく。
幕が上がれば一気にオペラの世界に引き込まれてしまった。