オオカミ専務との秘めごと
物語は終焉し、会場内はスタンディングオベーションの渦となる。
私も大神さんに倣って立ち上がって、カーテンコールが繰り返されるたび、何度も拍手を送る。
オペラは高尚で難しいものだと思っていたけれど、こんなに分かりやすく感動するなんて。
結局二人のまわりの席には誰も座らなかったため、奥行きのある舞台と俳優たちの歌と演技を気兼ねなくゆっくり観られた。
ほんわかと余韻に浸っていると、大神さんが私の手の中からハンカチを取った。
洗って返すつもりだったのに、何を言う間もなくポケットにいれてしまった。
焦る私を見て、彼は自分の唇に人差し指を当てる。
何も言うなということだろうか。
「あ・・・、ありがとうございました」
「よし、帰るぞ」
来た時と同じように腕が差し出され、そっと腕をつかむ。
帰りの人波に流されないようにしていると、いつの間にかしがみ付くようにしていて恥ずかしくなる。
「ごめんなさい、つい」
離そうとした手を逆にぎゅっと押さえ込まれ、そのまま地下駐車場まで来た。
「これ、ありがとうございました」
車に乗る寸前にパールのネックレスを外そうと、うなじに回した手を正面から捕まえられた。
私を見る彼の表情は、怒っているように感じる。
「これは、家に帰るまで。今外したら許さん」
腕を元に戻されるときにぐっと引き寄せられ、まるで抱き寄せられるような感覚に陥いる。
「それに、これはもうお前のものだ」
分かったな?と、囁くように言われてしまったら、もう頷くしかない。
こくこくと何度も首を縦に振り、車に乗り込んだ。