オオカミ専務との秘めごと

「じゃあな。おやすみ」

「はい。おやすみなさい」


夜道を走り去っていく車を見送り、部屋に戻ってペタリと座り込む。

まるで夢のような時間だった。

まだオペラの余韻が胸に残っていて、着替えもせずにぼんやりとする。

響き渡る歌声は初めての生の衝撃というか、本当に素晴らしかったのだ。

自分のスマホを取り出してオペラ劇場を検索すると、今まさに見てきたばかりの歌劇の画像がトップを飾っている。

二人が座っていた席はS席で、二階とはいえ一番良いランクだったよう。

お金を貯めていつかまた自分でも観に行きたいと思い、参考までに他の公演予定を調べていると前売りチケットの価格が目に入った。


「S席は、三万四千円!?た、高っ!!」


値段表示を見て愕然とする。

高いイメージがあったけれど、これほどとは思っていなかった。

さすが、セレブな趣味だ。ドレスアップして観に行かれる方々が多いのも頷ける。


「一番安いD席でも一万円もするのかー、うわー信じられない!」


これだけあれば五キロ二千円のお米が五つも買えるし、お肉なら一体どれだけ・・・。

計算しようとして頭がパンクしそうになり、スーパーで特売のさらに半額引きを狙う私には、ハードルが高い趣味だと痛感する。

きっとチケット購入する際は、清水の舞台から飛び降りる勢いが要るだろう。

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