オオカミ専務との秘めごと
しかもS席で誰にも気兼ねなく観られるなんて、貧乏な私には宝くじに当たるよりも確率が低いこと。
お仕事とはいえ、人生で一度もない、とんでもない経験をさせてもらえたのだ。
そう思えば、この出来事を一生忘れてはならないと、オペラ劇場の歌劇画像をスクショして保存しておいた。
そして、胸元にあるアクセサリーをそっと指でなぞる。
このピンクパールのネックレス。
首から外しててのひらにのせると、アパートの安い電灯の灯りでも一つ一つの玉が艶々と光を放つ。
詳しくはないが、小指の腹ほどもある玉は、真珠の中でも大粒と言ってもいいんじゃないだろうか。
『お前のものだ』
頭の上からささやかれた声は、感動しまくったオペラの歌声よりもはっきりと耳に残っている。
本当に頂いてもいいんだろうか。
雇用主からの支給品と思えばいいのか。
そう考えて、ふと豚に真珠の言葉が浮かび、我ながらに苦笑いをする。
今のままでは宝の持ち腐れだ。
「これを身に付けるのに相応しい女性にならなきゃ」
容姿は限界があるけれど、中身なら無限の可能性がある。
自分磨きを始めようと決め、ネックレスを仕舞おうとしてハッと気付いた。
こんな高価なもの、どこに仕舞っておこうか。
今までアクセサリーの類を一つも持っていなかったので、ジュエリーボックスなんてお洒落なものを持っていない。
考えあぐねた結果、塚原新聞店のロゴが大きく入った新品タオルをおろし、丁寧に包んでクローゼットの中に入れた。
いつか、専用の箱を買おう・・・。