オオカミ専務との秘めごと

雄太は途中で泣いちゃうことがあって、お母さんは抱きしめて宥めつつも観ることは止めなくて、そのたびにお父さんが呆れていたっけ。

私もそんなお母さんに影響されて、怖いけど好きで観てしまうのだ。

これは、たくさんあるお母さん譲りのものの中の一つで、好きな映画は何?と訊かれたら、即「ホラー映画です」と答える。

でもにっこり笑顔でこう答えると、大抵の男子は引いてしまうのが哀しいところ。

最初は合わせていてくれても、熱く語り出すと高確率で離れていくのだ。

やっぱり可愛らしく「好きなのは、恋愛映画です」とか「切なくて泣ける映画です」とか、答える方がいいんだろうな。


きっと大神さんも、そういうしとやか系の女性のほうが好みに違いない。

オペラ観劇のときに見せてくれた紳士的な姿がそれをよく物語っている。

今までお付き合いしてきた女性は、あんな扱いが似合う人たちばかりなんだ。

駅やスーパーとか、何かあれば、即自転車をかっ飛ばすような私なんて、お仕事契約がなければ、そばに寄ることもできない相手なんだから。


オペラ観劇の時はお仕事依頼がそれだったので、終わればそのままアパートまで送ってくれた。

時間的には夕食タイムだったけれど“食事を一緒に”とはならなかったのだ。

レンタルのお仕事自体はあっさりしていて、必要な時だけ呼び出される、雇用主と雇われた私のすっきりした関係だ。


やがて、怖い系動画視聴で時間がつぶれ、目覚ましのアラームが鳴った。

今からが本当の一日の始まり。

うーんと伸びをして、カーテンを開けた。

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