オオカミ専務との秘めごと


女性が男性の首に手を回し、背伸びをして、キスをしている。

男性の方はファイルを手にし、もう片方の手で女性の腰を支えている。

その男性は・・・長谷部さんだ・・・。


二度目のキスシーン目撃。

叫び声が出なかった自分が凄いと思う。

前回よりも間近で、息遣いも音もはっきりと聞こえてきて、すごく生々しい。

キスをしながら眼を上げた長谷部さんとばっちり視線が合ってしまい、ぼーっと突っ立っていた脚を動かして速攻逃げた。


まさか会社の中でキスをする人がいるとは!

相手の子は後ろ姿しか見えなかったけれど、営業部の子じゃないみたいだ。


息を切らしてデスクに戻ると、佐奈が怪訝そうな顔をした。


「菜緒、どうしたの?」

「ううん、なんでもないよ」

「そう?ならいいけど。何かあったら相談してよ?」

「うん、ありがと」


今見てきたことを佐奈に言えるはずもない。

というか、あれは、誰にも言えない出来事だ。

書庫って頻繁に利用しないから、キスをする穴場なのかもしれない。

今度書庫に行くときは、気を付けよう・・・。


今見たシーンを思い出さないように勤めながら仕事を片付けて、竹下さんたちの視線を感じつつ、いつものように定時帰りをする。

エレベーターを待ってる間にピンクスマホのチェックをすると、新着メールが一件あった。

二度目の、お仕事依頼だ。


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