オオカミ専務との秘めごと
今の時間は帰宅ラッシュ。
道路はすごく混んでいて、車は少し進んでは止まるを繰り返す。
大神さんは時計をチラチラ見て気にしていて、何かの予定が決まっているみたいだ。
「あの、今からどこに行くんですか?」
「郊外だ。ちょっと急ぐぞ」
車は高速道路に乗り、怖いくらいにぐんぐんスピードアップする。
車線変更を繰り返して乗用車を追い越し続けるから、怖くて声も出ない。
やがてインターを降りて向かった先は、また何かの施設っぽい場所の駐車場だった。
広いわりに三台しか車が停まっていなくて、ひっそりしている。
駐車場の向こうには、青系の照明でライトアップされたムーディなエントランスが見える。
パッと見は、レストランみたいだ。
「ここは?」
「俺の趣味の一つ。お前にも見せてやろうと思ってな」
趣味・・・ということは、食事とかじゃないみたい。
今度は、ジャズとかの音楽だろうか。
オペラ観劇のときのようにエスコートされてムーディなエントランスをくぐると、ホテルのロビーみたいな空間が広がっていた。
私たちが受付カウンターに近づいていくと、紺のスーツを着た女性が優雅に微笑んでお辞儀をした。
「大神さま。お待ちしておりました」
「少し、遅れたな」
「いいえ、大丈夫でございます。本日は貸し切りですから、来店されるまでいつまでもお待ちいたします」
大神さんが書類にサインをすると、スマホを含めた手荷物を全部お預かりいたしますと言われ、ポケットに入れてあったピンクスマホも受付カウンターに出した。