幸せの青い鳥

命の選択

「先生、息子を助けてください……」



窓が開いていて、母親の悲痛な声が聞こえる。



カーテン越しにのぞくと、彼はベッドに横たわり、傍らに医者と看護婦、そして家族がいた。



「このまま昏睡状態が続くようだと……」



深刻さを隠さず、医者はゆっくりと話し始めた。



昼間、るりちゃんと遊園地でデートしたボクは、三日月がカオを出すこの夜にこの光景をしっかりと見ている。



「とても危険な状態です。このままだと、息子さんはたぶん───」



月の光に照らされた雅樹先輩の寝顔。



医者のその言葉を聞いた時、ボクの命の恩人であり、父親であり友達だった彼のことを深く想った。



でも、それでもやっぱり…ボクの中に新しく生まれた、人間としての感情はそれを止めなかった。



雅樹先輩…ごめん。



るりちゃん、ごめん。



それに、ボクを取り巻く全てのモノに、いろんなヒトたちに、ごめんなさいと言いたかった。



ボクは動物としての最低のルールも守れなかったんだ。



仲間を捨てて、大切な人を裏切り、好きになってはいけない人に恋をしてその人までも悲しませようとしていた。



翌朝、彼の命はなかった。


それは、ボクという新しい人間が完全に造られる瞬間で、恐らく昨日の一番真夜中の頃だったろう。


目覚めると、太陽がカオを出し始めた時だったから。


雅樹先輩の顔には、白い布がかけられていたから。



夕べボクは、彼の部屋の前で死んだように眠った。



全て雅樹先輩になるために、完全に生まれ変わるために。



月光の力を借りて、深い哀しみを抱いたまま───家の中にいる彼の命を奪ったんだ。


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