隣の部屋と格差社会。



「今週の日曜日、我が社近くのホテルで
お嬢様のお見合いが行われます。」

「…え?」


しんと静まるエントランスに震える私の声が響く。


「そんな…。私はお断りしたはずです。」

「確かにお嬢様は、『お見合いなんてしない』とおっしゃいましたが、社長は納得されてませんので。」


少し申し訳なさそうに話す武田さんは、私から視線を外す。


「私はお見合いなんてしません。ホテルにも行きませんから。」


震えないように、力を込めて言うと、思ったよりも大きな声が出て、武田さんが驚いたように視線を戻した。

そして、私とは反対に静かな声音で言った。


「櫻木製薬を見捨てる気ですか?」

「っそんな、こと…!」


しない。

なんて、言えるわけがない。


私が今していることは、そういうことだ。


さあ、と血が引いていくのが分かる。

体温が急激に下がっていって、寒気さえ感じ始めたとき。


背中に温もりを感じた。


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