隣の部屋と格差社会。

お嬢様、お隣さんの過去を知る。

佐渡さんの『守りたい人』って、もしかしたら恵美ちゃんとお母さんのことかもしれないな。


そんな想像はずっとしていた。


でも、『もしかしたら』『かもしれない』という断定ではない不確実な言葉の効果は絶大で。


その言葉に縋り付いていた私の心はぼろほろに砕けてしまった。


そんな私の目の前で、なんで美奈子さんは傷ついた表情をしているのか。


ふたりとも無言の重い空気の中、先に口を開いたのは美奈子さんだった。


「私の旦那さん、恵美のお父さんは恵美がまだ私のお腹にいるときに亡くなったの。」


美奈子さんは、平らなお腹を大事そうに摩りながら静かに話を続ける。


「竜一君は、自分が殺したと思ってる。」

「え？」


黙って聞いていようと思ったのに、あまりの驚きになんとも間の抜けた声が出てしまった。

苦しそうに眉間にしわを寄せる美奈子さんに、嫌な汗が吹き出す。