隣の部屋と格差社会。



「鼻で笑ってたじゃないですか…。」

「え?ああ、あの住所変更の件か。あれは、そんな便利なシステムがあったら俺たちの仕事減るなと思って、つい。悪い、悪い。」

「え?」


馬鹿にしたんじゃなかったの?


「まあ、困ったことがあったら言ってくれ。出来ることなら力になるから。」


あれ?意地悪じゃない。


というか、すごく優しい返答だ。



「ありがとうございます。そう言っていただけるだけで心強いです。」

「まあ、役に立てるかは分からないが。」


目を合わせずにそう言う佐渡さんは、充分なんでも出来そう。


意地悪なんて思ってごめんなさい。


そんな彼の隣で暗闇に浮かぶビルの光を見つめていると、なんだか寒くなってきた。


思えば私、すごく薄着だ。なんと、春物のワンピース一枚。


そろそろ部屋に戻ろうかな。


「佐渡さん、これからよろしくお願いします。おやすみなさい。」

「ああ、おやすみ。」


そんな短い挨拶を交わして、さきに自分の部屋へと戻った。


佐渡さんの煙草はまだ長い。もう少し外で吸うんだろうな。



佐渡さん、悪い人じゃなさそうでよかった。


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