隣の部屋と格差社会。
日が落ち始め、西の空は本格的に暗くなっていく。
一人残された公園で、顔を真っ赤にさせてぱたぱたと駆けて行った隣人の後ろ姿をただただ見つめることしか出来なかった俺は、一度上げかけた腰をもう一度ベンチへと降ろした。
『だから、佐渡さんは幸せを望んでください!』
彼女の必死な声が頭の中でこだまする。
幸せとは、自分にとって要らないものだと思ってきた。手に入れてはいけないものだと。
しかし今、手を伸ばせば届く距離に幸せがある気がする。
要らないはずなのに。断ち切ったはずなのに。
彼女が必死に差し伸べてくれた手を取りたくて堪らない。