隣の部屋と格差社会。
これは、完全なるキャパオーバー。
何も考えられなくなった頭の中ではじき出した答え。それは。
今度こそ、逃げよう。
幸い、腕は解放されている。
ドアノブを回し、滑り込むように部屋へと入り素早く扉を閉めた。
ーーーばたん。
扉に背中を預け、そのままずるずるとその場に座り込む。
扉はすごく冷たくて、背中を通し身体全体を冷やそうとしているが、なかなか熱が引いてくれない。
え?なんだったの、今のは。
あれ?私振られたんじゃなかった?
頭の整理がつかない。
こんな話をしているとき、突然なにも言わずに逃げ出すなんて。
佐渡さん、絶対驚いてる。いや、それどころか引いてるかも。
もう、どうしたらいいの。
ーーーヴヴヴ。
頭を抱えていると、リビングのテーブルに置いていたスマホが震える音が聞こえた。
誰だろう。
佐渡さんだったらどうしよう。そう思って画面を覗くと、そこには『武田さん』の文字。
取るかどうか一瞬迷い、取り敢えず通話ボタンを押した。
『ーーーー奥様が倒れられました。』
私が名乗るより前に聞こえた声は、暗くて重くて。
その言葉を理解するより先に、手からスマホが滑り落ちていた。