隣の部屋と格差社会。
涙こそ目に浮かべていたものの、満面の笑みのお母さんに出迎えられたときの驚きは言い表せない。
『騙すようなことしてごめんなさい。でも、あの人に頼まれて。』
と、私を抱きしめたままそう言ったお母さんを責める気になんてなれなかった。
むしろ、良かった。
お母さんが元気そうで、本当に良かった。
安堵ともに湧き出てきた感情は、怒り。
母にこんなくだらない嘘をつかせたのは、父以外にいなかった。
父に文句を言ったらまたあのマンションへと戻ろう。
そう思って父の書斎への扉を開いたはずなのに。
あれから、もう5日も経ってしまった。