隣の部屋と格差社会。
「菖蒲さんとお付き合いさせていただいている、佐渡 竜一と申します。」
隣では佐渡さんが父に頭を下げている。
そんな姿を見て、ただ口を開けないでいることが精一杯の私はこの状況についていけない。
え?付き合ってるんだったけ、私たち。
いやいやいや。付き合ってない、付き合ってない。
いくら恋愛偏差値の低い私でも、それくらいは分かる。
なのに。
なんで、佐渡さんはこんな嘘をつくの?
戸惑っている私を余所に、佐渡さんは父と話をするためなのか、私の背中に手を添えて押すように父の前に二人で並んだ。
櫻木製薬の社長室。デスクに座った父の前に、娘である私と突然現れた佐渡さんが並ぶ。
未だ、私の背中には佐渡さんの大きく手を少しごつごつした手が添えられていて。
その手は熱い。
私の背中もどんどん熱くなってきて、触れられている部分はもう燃え出しそうだ。