隣の部屋と格差社会。
「で、怒ってまた家を飛び出したと。」
隣に居る佐渡さんが呆れたように大きなため息を吐いた。
「はい…。」
佐渡さんが間に入ってくれて、大分お父さんとお互いに歩み寄れるようになった。
家にも月に何度かは帰るようにもなったのに。
あの軟禁事件以来、何度目になるか分からない衝突に自分でもあきれる。
けれど。
「親子喧嘩って、今まであんまりしたことがなかったから、なんだか嬉しいんです。お父さんとの距離が縮まった気がして。」
「良かったな。」
「…はい。」
佐渡さんがふんわりと頭を撫でるから、思わず隣に擦り寄った。
また懲りずにバルコニーでコミュニケーションを取る私たちだけど、明らかに変わったことがある。
それは、佐渡さんの部屋のバルコニーで2人並んでいること。
2人の間には、なんの仕切りもない。
まあ、もともと仕切り板も無かったんだけど。
2人で並んでビールを飲みながらひっつきあうこの時間が何よりも好きだ。
背伸びして飲んでいるビールは相変わらず苦くて、結局いつも半分以上は佐渡さんに飲んでもらうんだけど。