隣の部屋と格差社会。
「待て。炊飯器はどこだ?」
お米を綺麗に研ぎ終わったとき、佐渡さんが恐ろしい言葉を言い放った。
「炊飯器?」
「ないのか。」
「ない、です。」
ああ、炊飯器。いくら常識のない私でも分かる。
それは、お米を炊く道具だと。
「いい。鍋で炊こう。」
今日一番に呆れた様子でそう言った佐渡さんは、動画よりもよっぽど丁寧に教えながらお米を炊いてくれた。
本当に申し訳ない気持ちでいっぱい。
でも、今胸を占めるのはお米が炊けるいい匂いだけだとは口が裂けても言えないけど。
「ごめんなさい。私が常識ないばかりに、佐渡さんに頼り切ってしまって。」
「別にいい。」
「私、家を飛び出してきた様なもので頼れる人も居なくって。」
「家出か?」
「変ですよね、こんないい歳して。」
「まあ、色々あるだろう。」
変な話なのに、表情も崩さず淡々と聞いてくれる佐渡さんに、何故だか心が和らいでいく。